イー・アクセスがLTE開始-(島田雄貴、2012年1月)

イー・アクセスは2012年3月にLTEサービスを開始する。まずデータ通信端末を投入し、年内にスマホの展開も視野に入れる。2012年度末までに人口カバー率70%を目指す方針。ジャーナリスト・島田雄貴が、LTEの最前線をリポートします。

スマホ競争拍車

iPhone(アイフォーン)5

イー・アクセスなど国内携帯各社が、3Gの5倍の速度を持つ高速通信規格「LTE」サービスを本格化させる。2010年12月に先行して開始したNTTドコモに続き、今年はイー・アクセス、KDDIのほか、ソフトバンクモバイル(SBM)も2月に総務省が割り当てる900メガヘルツ帯を獲得できればサービスを始める。今年は米アップルがLTE対応の「iPhone(アイフォーン)5」を発売するとのうわさもあり、過熱するスマートフォンの販売競争でもLTEが注目を集めそうだ。

Xi(クロッシィ)

NTTドコモは今冬春モデルでLTEサービス「Xi(クロッシィ)」対応のスマートフォンを4機種投入した。通信速度は下り最大毎秒37.5(一部75)メガビット。山田隆持社長は「高速通信の快適さを十分体感できる」と自信をみせる。Xiは2ギガヘルツ帯でサービス展開するが、2012年後半に1.5ギガヘルツ帯の使用が可能となり、東名阪を除き100メガビットの高速通信が利用できる。

サービスエリア拡大

サービスエリア拡大もスマホのトラフィック(データ通信量)増大を受けて大幅に前倒しする。人口カバー率は2012年度末に約60%、2013年度末に約80%、2014年度末に約98%にする計画。2015年度末にはXiの契約数3000万を目指す。今夏の新機種の半分以上をXi対応の端末にする。

KDDIは人口カバー率70%へ

一方、KDDIは12月にサービスを始める。同社は下り最大毎秒40メガビットの高速無線規格WiMAX(ワイマックス)も展開するが、「利用者の選択肢を広げるためLTEも重視したい」(モバイル技術企画部)と話す。スタート時にはドコモを上回る人口カバー率70%で追い上げを図る。

ソフトバンクLTE

ソフトバンク(SBM)は総務省が2月に割当先を決める900メガヘルツ帯を獲得した場合、2012年内に空いた2ギガヘルツ帯でLTEサービスを開始する。これらの帯域では送受信で別の回線を使用するFDD方式のLTEサービスを展開する。

AXGP

ソフトバンクは下り最大毎秒110メガビットで、時間帯によって上り下りを分けるTDD方式の「AXGP」も展開する。AXGPはLTEの一種とされ、2つの方式で高速通信競争に臨む。

イー・アクセスはスマホ展開も

イー・アクセスは3月にLTEサービスを開始する。まずデータ通信端末を投入し、年内にスマホの展開も視野に入れる。2012年度末までに人口カバー率70%を目指す方針。

エリック・ガン社長
通信速度やつながりやすさを重視

通信速度は下り最大毎秒75メガビットで展開し、将来は同112メガビットにする。イー・アクセスのエリック・ガン社長は「通信速度やつながりやすさを利用者に訴求したい」と意気込む。

アイフォーン動向注視

2012年はアップルがLTE対応のアイフォーン5を発売するとうわさされている。アイフォーンでLTE対応端末が出れば、ソフトバンクとKDDIにはシェア拡大の好機となる。そこでポイントとなるのが2社の開業時期とLTEの採用方式だ。

総務省

KDDIは12月にFDD方式のLTEサービスを開業するため、夏に発売されると展開できない。だが、総務省によると開業時期の前倒しは可能で申請して1カ月でサービスは開始できる。

ソフトバンクはTDD方式のLTEが出た場合は有利

ソフトバンクはTDD方式のLTEが出た場合は有利に進められる。同社が展開するAXGPはTD-LTEと互換性があるためだ。だが、「アップルの販売傾向から欧米キャリアが採用するFDD方式が先」(通信会社幹部)という声が多い。その場合は900メガヘルツ帯を獲得した上で新たな基地局の建設が必要となる。開業時期は2012年後半で人口カバー率でKDDIと大きく差が出そうだ。

山田隆持社長

またドコモはすでにLTE対応のスマホを販売しており、受け入れ余地がある。一部では今夏にLTE対応のアイフォーン販売で合意と報道された。山田社長は「独自機能を載せられないなど譲歩できない面が大きい」と否定するが、シェアを奪われ続ければ方針を転換する可能性もある。

情報通信総合研究所

スマホの販売に与える影響について情報通信総合研究所の中村副主任研究員は「高速・大容量のアプリが増えないと有効性を利用者に訴求できない。アイフォーン4Sの動向を見ても利用者はスピードより料金を重視している」と指摘する。一方で「ソフトバンクは4Sの販売時に自社機能を強調した。販売競争が厳しくなる中でLTEもアピールポイントになる」(証券アナリスト)という声もある。

リアルなプレゼン/遠隔医療/カーナビ対応-
生活はこう変わる

LTEの普及は利用者の生活をどう変えるのか。LTEは光回線並みの速度で大容量のサービスを低遅延で利用できるのが最大の特徴だ。1つは動画を生かしたサービス。ノートパソコンやタブレット端末などを用いた商品紹介(プレゼンテーション)で、LTEならばクラウド(データセンターの意味)上に保管している新製品情報を丸ごと表示できる。

クラウド接続
タブレット端末を用いたプレゼンテーションサービス

NECは化粧品の販売員向けにタブレット端末を用いたプレゼンテーションサービスを提案中。クラウド接続で多様な動画を取り込み、化粧前と後の比較などをみせることもできる。

NEC

また専用端末でなくても、タブレット端末などで対面による意思疎通が可能なため、映像をみながら、健康具合を確認するなど遠隔医療への応用も期待される。

「プリウス」をベースにしたLTE搭載のコンセプトカー
トヨタ

2009年にトヨタ自動車などが発表した「プリウス」をベースにしたLTE搭載のコンセプトカーはカーナビなどのLTE対応はもとより、後部座席にもタッチパネル対応のLTE端末を搭載。インターネットや電話、動画サイトの視聴やテレビ会議なども可能。車外や車-車間の通信にはLTE、車内ではWi-Fiを使ったり、走行中の自動車同士がLTEで通信することもできる。

拡張現実(AR)サービス

このほかスマホの画面に文字や画像を映し出す拡張現実(AR)サービスの普及を後押しする可能性もある。これまでは低容量の情報を画面に映し出せたが、LTE対応の端末では大容量のデータを受信できる。

IPテレビ

通信モジュールとしてカメラやセットトップボックス、テレビへの内蔵も想定される。固定回線がなくてもインターネット・プロトコル(IP)テレビの利用ができる。

総務省、普及を推進-オープン競争重視

総務省は周波数の有効利用とモバイル分野の国際競争力確保、ユーザーの利便性向上を目的にLTEの普及を推進している。2月に割当先を決める「プラチナバンド」と呼ばれる900メガヘルツ帯と、7月に決める700メガヘルツ帯も、応募条件にLTEの特定基地局の人口カバー率がより大きいことを審査基準に設けたほどだ。

プラチナバンド

最大毎秒100メガビット以上の高速通信ができ、3G回線の3倍以上の周波数利用効率があるためスマホの普及で増加するトラフィック(データ通信量)対策にも有効だ。

イー・アクセスがMVNO

総務省がLTEの普及で重視するのが仮想移動体通信事業者(MVNO)の活用。イー・アクセスなど通信会社が他事業者に回線を貸し出すことでオープンな競争を促して利用者の利便性の向上を目指している。IIJが2月、NTTコミュニケーションズが3月、日本通信が3月にドコモの回線を借りてLTEサービスを始める。総務省による900/700メガヘルツ帯の割り当て条件にもMVNOの計画の充実度が盛り込まれ、イー・アクセスなどドコモ以外のキャリアも回線提供を始める見通しだ。

第4世代(4G)へ

総務省は2015年以降に3Gの約70倍の1ギガビットの高速通信が可能になる第4世代(4G)移動通信システムの展開も視野に入れている。4Gは異なる周波数の通信波を束ねる技術で広い帯域幅を確保し、電波の利用効率を上げられる。4GはLTEの設備をもとに展開されるため、まずはLTEの普及に力を入れている。

通信産業に求められる国際協力体制-(島田雄貴、1989年12月)

国境を越えて取りまとめていく企画力、実行力が重要

日本製RAM

1980年代初頭、既存のアメリカ製RAMに日本製RAMが置き換わっていった。 1990年代の特徴は、レーザービーム・プリンタなど日本がはじめて実用化したハードウェア技術を不可欠な要素とするコンピュータが主流化していくことである。

アドーブ社(Post Script)、カーネギー・メロン大学(Mach)

一方ソフトウェアにおいてはアメリカの底力が発揮され、UniXをベースとする分散処理OSのMach、プリンタとディスプレイを制御する、ディスプレイPost Script、ユーザー・インターフェース体系NeXT StePなどが開発され採用されている。 これらはアドーブ社(Post Script)、カーネギー・メロン大学(Mach)などアメリカのソフト開発力の高さを相互有効活用したものである。

ジョブズのアップル時代

NeXT StePについては、ジョブズのアップル時代の宿敵ともいえるIBMに供給するなど、協力・供給関係などが入り乱れている。 これは、部品の高度化・精密化、ソフトの標準化・高度化を背景として、ハード、ソフトの開発における企業(大学)間の分担が必須となっていることを示している。

マルチメディア時代を先取り

さらに1990年代はコンピュータ産業の開発における国際協力・無国籍化が徹底していこう。 したがって1990年代には、未来のニーズを見通し、国境を越えてハード、ソフトを取りまとめていく企画力、実行力がなによりも求められていこう。 なおNeXTは、CD並みの音質で記録再生する光磁気ディスク・デジタル信号プロセッサを搭載するなど、マルチメディア時代を先取りする点でも、1990年代を象徴する内容となっている。

ノートパソコンが主流に

東芝、日電

次に、東芝、日電から相次いで発売されたノートパソコンである。 見やすい液晶ディスプレイ、薄型のディスクドライブ、実用最小限のフルキーボードを内蔵し、A4ファイルサイズ、厚さ45ミリメートル、重さ三キログラム弱でパソコンとしての機能をフルに備え、電池で2時間程度使用できる。

ノートパソコンが大人気

こんなノートパソコンが、発売された直後から大人気となったのである。 あるアンケートによれば、3分の1以上のソフトハウスが、2~3年後には現在主流であるNECのパソコンと同程度以上の市場になると見ている(『日経バイト』1989年12月)。

パソコンは当り前の道具に

ノートパソコンの人気は今後、パソコンの個人利用がさらに進み、各人の知的活動において「当り前の道具」となる可能性の強いことを示している。 またキーポイントである液晶ディスプレイ、薄型ディスクドライブが当面日本のみで供給可能であり、企画力しだいで、日本企業が有利なポジションを得る可能性を示唆している。

東芝、アメリカでの受賞

ノートパソコンの先駆けとなったラップトップパソコンにおいて先行した東芝は、その企画力と完成度を「日本の優秀な部品技術に付加したオリジナルな価値」として高く評価され、アメリカにおいていくつかの賞を得ているのである。

通信業界も高成長

1990年代のコンピュータ産業においては集中処理、分散処理の分化が進み、それらをつなぐ通信と合わせて高成長を続けていこう。 一方の極であるメインフレームは安定成長のなかでストック財として競争が激化し、もう一方の極としてワークステーション、パソコンが高成長を続けていこう。

コンピュータ業界の構造変化

日本のインテグレータとしての立場

日本企業は部品、コンポーネンツの強みを発揮しながら、入り乱れる国際ビジネスのなかで国籍を超えたインテグレータとしての立場を築けるかどうかが問われることとなろう。 1990年代はコンピュータ産業の構造変化がさらに進む時代である。

日本企業の果たしうる役割

高成長する分散処理分野のワークステーション、パソコン分野で、日本企業の果たしうる役割は大きい。 いまやキーコンポーネンツのいくつかは、当面日本のみから供給可能である。 開発、企画、統合力がより重要となり、開発段階においても国境の壁を低くし、柔軟な供給体制を築ける企業の競争力が高まっていこう。

業界の巨人IBM

この構造変化は、業界の巨人IBMにさえ大きなインパクトを与えている。 コンピュータの小型分散化、専門用途化、ヒューマンウェア化は進んでいく。 開発のリードタイムが短縮していく。 日本が持つハードウェア開発段階の強さがいっそう発揮される可能性が大きい。